俺のシボレーには,エアコンなんてシャレたものは付いていない。
窓を開けるとテキサスの乾いた空気が入ってきた。
ハンドルを切りながら鼻歌を歌っていると,
後ろの座席にほおりこんでいたヘビメタ娘が,
目をこすりながら起きあがり,言った。
「古くさい歌ね。なんて曲?」
「さあな,忘れちまったよ。」
「――あたいのギターは?」
「家の中だ。取りにもどるかい?」
「………やめとくわ。
あーあ,あれがあれば伴奏ぐらいつけてあげられたのにね。」
俺は笑って,歌を続けた――
"真心ってやつは,真心は,
宝石の数で変わるのかい?
ドレスの値段で決まるのかい?
ブルースってのは,ブルースは,
ギターがなけりゃ歌えぬものかい?
ドラムがなけりゃ歌えぬものかい?"
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